私も存分に水を飲んだ。萎えていたが力が湧いてくるようである。
「よっしゃ、入るぞ-」梅木が大声で気合いを入れた。
梅木と卓也は道を切り開く先陣である。腰に鉈を携えている。一汗かいたおかげで私も大分楽になった。死んでもついていくしかないと心に決めた。だが、思っていたよりも酷い。適度にまばらだったのは最初だけだった。少し入ったところで山は本性を現した。恨みでもあるかのように山は激しく人を拒んでいる。そこそこの竹があちこちに生えている。小木も一面に生えている。それらがツタや太い草で幾十にも絡まっている。その所々に幹の太い樹が生えていて、四方八方に固い枝を伸ばしている。それがまたツタや太い草と執拗に絡まっているのだ。小ぶりのの鉈なんかが通じる世界ではないと思えた。未開の山とはどんな低山でもこうしたものだろうか?私は度肝を抜かれて立ちすくむばかりだった。
しかし、梅木と卓也は怯まない。距離をとりながら鉈を振るい続け、少しづつ切り開いていく。見ていてわかるが、彼らは刃が通る木の種類を熟知しているようだ。太くて固そうでも柔らかいものは柔らかくて、2,3太刀でスパと切れる。どうにかこうにか、それで人が通れる幅を確保するのだ。二人の働きで我々はジワジワと登り始めた。
なに、入れる隙間さえあれば枝やツタを掴めば前進するに都合がいい。私も少しづつ要領を覚えていった。なにより、遺品の革手袋が格好の戦力になった。柔らかくて薄そうなのに強靱極まりない。尖った切り口でも破れない。
下は葉っぱが腐って出来た腐植土というのか、ズボッと入るほど柔らかいが滑るよりはマシだと思った。石や岩はそれほど多くなく、逆に滑り安いので乗らないようにと義行さんから指示を貰った。昨日の夜、少し降ったようだ。何から何まで水気を含んでいる。
先頭の二人は早い。余裕で道を切り開いている。ペースが速いので、二人で突っ立って会話を楽しむほどである。なにで鍛えれば、人間はこれ程までに強靱になれるのか?若さだけでは到底ない。重たい靴を履き重い荷物しょって、鉈を振るい続けてもケロッとしている。
メスナーとか有名な登山家の強靱さはテレビで承知だが、前の二人を見ているとさもありなんと思った。すると、私が身につけている品々の今は亡き先人の腕前は想像するに遠くはない。
やがて、我々は大きな岩が横たわっている少し広い所にでた。
時間の感覚は失われているが、喉が渇いているのは確かだった。汗も滝のように流れている。
「休憩じゃ」義行の一言で、めいめい好きな所に座り込んだ。ところが、水係の私はそうはいかない。ペットボトルを持って各自を回る。
「食うなら、おにぎりとサンドイッチあんど」
義行が自分のリックから銀紙に包まれた塊を取り出した。敬子と豊子が夜なべで作ったものだろう。私も海苔でくるまれたまん丸のおにぎりを一ついただいた。梅干しが入っていた。
「エリザベス女王が崩御されたない。あげな偉い人、ワシャー、永遠に生きると思ちょった。イギリス人の悲しみを思うと堪え切れんヨ-」
義行がおにぎりを食べながら、いきなり言った。言いたくて溜まらなかったという風である。
「ベッカムは献花で13時間も並んだそうですよ」
卓也がサンドイッチを食べながら言った。
続く
あとがき
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